写真:エンジェルス公式ホームページより
大谷翔平から目が離せない!
(「昭和のおやじ」記)
今、大谷翔平から目が離せない。それこそ彼の一挙手一投足が気になる。今年は体調も良いのだろう。メジャーに行ってから4シーズン目になるが、表情も今が一番豊かだ。
なぜ大谷翔平のことを、この“昭和をつなぐニュースメディア”のバトンで書くのかというと、昭和こそ最もプロ野球が輝いていた時代だと思うからである。あの頃、本当に野球を見るのが楽しみだった。そして大谷翔平の今のプレーを見ていると、あの頃のワクワク感が甦ってくるのである。
彼がバッターボックスに入る時、本拠地のエンジェル・スタジアム・オブ・アナハイムでは、場内アナウンスが「ショーヘー・オータニ」と独特のイントネーションで呼び上げる。そうすると場内からどんな場面でも大きな歓声とどよめきが沸き起こる。コロナ禍前までは日本から押し寄せた大勢の日本人が声援を送っていたが、今はほとんどアメリカ人のファンが彼の打席にエールを送っている。大人も子供も彼に一生懸命拍手を送っている姿を見ると、思わず涙が出る。
渡米してから今日まで、彼もすべてが順調であったわけではない。まさかのトミー・ジョン手術も経験した。それらを乗り越えて今の大谷がある。思い起こせば大谷翔平の野球人生は、栄光と挫折の繰り返しであった。
高校時代、花巻東の投手として160㌔を投げ、全国から注目されていた存在だったが、2度出場した甲子園大会では、体調が万全でなくいずれも1回戦で敗退した。3年生の夏、岩手大会決勝戦ではまさかの3ランを浴び、最後の甲子園出場もかなわなかった。高校最後の夏は、悔し涙とともに暮れたのである。そんな大谷に早くから目を付けていた球団があった。北海道日本ハムファイターズ。毎年ドラフトで、その年の一番の選手を指名するのが球団方針のファイターズは2012年、大谷選手をドラフトで1位指名することを決めていた。
ところが大谷選手はドラフト会議の4日前、突如会見を開き「アメリカでプレー」することを表明、世間を驚かせた。それでもファイターズは方針を変えず、ドラフト会議で大谷を一位指名した。それから1カ月半、世間がかたずをのんで見守る中、ファイターズ側と大谷選手との交渉が水面下で行われた。
筆者は大谷選手がファイターズを退団し、海を渡る直前の2017年秋、番組制作(注)の過程で、大谷選手本人とファイターズ球団関係者に長時間話を聞く機会を得た。
まず18歳でメジャー挑戦を表明したドラフト直前の会見について、大谷選手は「僕が野球をやっていたからには、てっぺん目指したいなっていう、すごいレベルの高いところでやってみたいなと思ったので」「挑戦してみたかったというのもそうですし、ほかの人と違う成長過程を踏んだ時に、自分がどのくらいの選手に最終的になれるのかなという興味のほうが大きかったので、まあ行ってみたいなという気持ちの方が強かったですね」と述べた。
前例のない高校生のメジャー挑戦表明であったが、ファイターズは粘り強い交渉を続けた。そして交渉期限が切れる最終日、ついに大谷選手は「本日、北海道日本ハムファイターズさんの方に入団させていただくことを伝えさせていただきました」と表明した。
難攻不落とも思われた彼の固い意志を突き動かす決め手となったのが、栗山監督などが提案した“二刀流”のコンセプトであった。
大谷「やっぱり“二刀流”をやらせてもらうという、二つやらせてもらえるというのは、僕にはない画期的なアイデアでしたし、まあそれが大きかったんじゃないかと思いますね」
彼はもともと「高校の時は、僕はバッターのほうが自信あったので…」。プロに入ってからも「僕は打席では一回も(足が震えるとか)ないので。バッターで緊張したことはないですね」という。「ただ将来的に考えるならピッチャーのほうが、伸びていける幅としては高いんだろうな…」と思っていた。
こうして入団してから、プロ野球選手としては前人未到の“二刀流”への挑戦が始まった。一部の評論家などからは「どっちつかずになる」として批判する向きもあったが、大谷選手も球団も“二刀流”に対してブレることは一切なかったという。
大谷「たとえそれが失敗だったとしても、それはそれで自分にプラスになるのかなとも思っていますし、これから先こう、もしまた再び二つやりたいという子が出て来た時に、それが一つのモデルになって、失敗を成功につなげてくれたらそれはいいことだと思っているので」
彼のユニークなところは、常に野球をめぐる状況に目が向いている点にある。若い子たちの中で、野球人口が減ってきていることを問われたとき
大谷「それは100パーセント僕らの方の問題なので。これは全く持って子供たちのせいではなくて、やっぱり(野球の)魅力というか、伝えきれてないのかっていう…ぼく個人的には、やれる技術を伸ばして、自分が発揮できるパフォーマンスを今よりどんどん上げて行って、今までにないようなワクワク感を見ている人に感じてもらえるように…ほかの競技に負けない魅力を、伝えきれるように頑張りたいなと思っています」
ところがシーズンが始まり、いざ始めてみると“二刀流”の難しさにも直面。1年目は投手として3勝、打者としては3本塁打20打点の成績であった。
しかし2年目、投打二刀流は進化し、日本プロ野球史上初の「10勝10本塁打」を達成。メジャーリーグでも、ベーブ・ルースしか記録してない快挙で、“和製ベーブ・ルース”とも呼ばれた。これに対し大谷自身は「(ベーブ・ルースは)本の中でしか見たことがないので、中々イメージはできないですね。まあ凄い光栄なことではあると思いますけど、僕は僕で頑張っていきたいなと思っています」とクールに答えた。
初めて開幕投手を務めた3年目、投手としての活躍が著しく、最終的に15勝をマーク。最多勝利・最優秀防御率・勝率第一位の投手3冠に輝いた。しかし打つ方は、5本塁打,打率2割2厘と振るわなかった。
そして4年目、二度目の開幕投手を務めたものの勝ち星に恵まれず、5月末、栗山監督は大きな賭けに出た。先発投手の大谷を6番バッターとして起用。指名打者(DH)を解除して、ついにリアル“二刀流”に踏み切ったのである。
大谷「DH解除に関しては、今でもやはりプレッシャーはありますね。やっぱり早い回で降りられないというのがまず一番なので。…何としても抑えるんだという気持ちはいつにもまして強くなるんじゃないかと思います」
この日、大谷選手は起用に応え、打っては3安打猛打賞、投げては7回1失点で勝ち投手となった。この試合が転機となり、その後チームは連勝を続けた。そして7月初め、首位ソフトバンクとの一戦で、栗山監督は「次の一手」を打った。大谷投手を初めて「一番」で起用したのである。そこで大谷は何と初球を右中間にホームラン。
大谷「狙っていくつもりでしたね。ていうか狙っていました」
(先日メジャーでも初めて一番に起用され、先頭打者ホームランを打った。こういうまさかのことをするのが、大谷選手の魅力である)
この年、大谷は自己最高の22本塁打を打ち、チームは球団新記録の15連勝を達成。見事リーグ優勝を果たした。さらにクライマックスシリーズの対ソフトバンク戦で、大谷投手は日本最速の165㌔をマーク。勢いに乗って日本シリーズで広島を撃破、ついに日本一の栄冠を掴み取った。
その年の契約更改の席で、球団から大谷選手の来期以降のポスティングによるメジャー移籍が認められたのである。
実際に海を渡るまでの1年間、栗山監督は何度も大谷選手の意思を確認したという。
栗山監督「俺に説明してくれと、なんでアメリカに行かなきゃいけないんだと。(そうしたら大谷選手は)あの初めて二刀流を提案されたときもすごく面白そうだと思ったし、こうやってまだまだ伸びしろもあって、うまくいってないこともいっぱいあるんだけれども、それで行くっていうことが大事なんですって。成功するとか失敗するとか僕には関係ないんだと。それをやってみることの方が大事なんですって言いきったので」「多分あいつ、だれもやったことのないことをやりたいんだと思います。結果じゃなくて、やってみる。チャレンジしてみることが嬉しくてしょうがないというタイプの価値観を持っている。だからこそこんなに結果が残るし、みんなが応援するしということだと思うんですね」
2018年に海を渡ってエンジェルスでプレーし始めてから、今年で4年目。日本でも4年目に大ブレイクをしたが、今季のメジャーでの大谷選手の活躍は、皆さんご存知の通り。予想を遥かに超えるパフォーマンスを見せてくれている。間もなく行われるオールスターゲーム。その前哨戦であるホームランダービーに、日本人選手として初めて出場することが決まり、またオールスター当日も“二刀流”での出場が認められるのではないかとの報道もある。彼のプレーや、言動がアメリカのメディアで毎日のように取り上げられ、もはやメジャーの「てっぺん」に届いたかに見える大谷選手。彼の目に、今どんな地平が見えているのだろうか?
大谷「(てっぺんとは)やっぱ周りから、彼がやっぱ一番今まででいい選手だったと、そういう声が聞けるときがいつか来るんだったら、それがやっぱり、あ、ここまで来たんだなと思える瞬間じゃないかなと思いますけどね」
筆者「僕の勝手な思いですが、大谷さんのプレーを見ているとモハメッド・アリの言葉を思い出すんです。『蝶のように舞い、蜂のように刺す』って」
大谷「そんな大層なものではないと思うんですけど(笑)。そう思ってくれている人がいるっていうのは嬉しいと思いますし、やっぱ見てて面白いなって、凄いなって、単純に結果云々ではなく、思ってくれているというのはすごく嬉しいなと思いますね。凄いプレーって誰が見ても凄いって思うんじゃないかなと思っているので。僕なんて、ほかの競技はやったことないところでみても、やっぱ凄いプレーは凄いと思いますし、それが普通なんじゃないかなと思います。誰が見ても凄いなって思ってもらえる選手になりたいと思っていますね。」
世界には
君以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある
その道はどこに行き着くのかと 問うてはならない
ひたすら進め
ニーチェ
注)『大谷翔平の来た道~二刀流の現在・過去・未来~』
2017年12月30日 テレビ朝日系列で放送
*生い立ちから渡米まで大谷翔平のすべてを描いたドキュメンタリー。いまこそ再放送を望みたい
以下のMLB公式サイト、Angelesの公式サイトで大谷選手の最新映像が見られます